移住者名 | 大島 史也(おおしま ふみや)さん |
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移住年月 | 2015年9月 |
年 代 | 10代~20代 |
家族構成 | 祖父、祖母 |
職 業 | 石本商店 代表 「ごまうふふ」製造・販売 |
私は高校卒業まで実家のある新発田市で暮らした後、大学進学を機に神奈川県で一人暮らしを始めました。学生時代は勉強もしながら飲み会やバイトを繰り返す、よくある大学生。4年時には周りの友人と同じように就職活動を行い、都内でシステムキッチンの製造・販売などを扱う会社から内定をいただきました。
大学生活も残りわずかとなった冬休みのこと。新潟に帰省していた私は新潟市で小さな商店を営み、手づくりでごまどうふを製造・販売している祖父の工場を見せてもらう機会がありました。初めて見たじいちゃんがごまどうふを作る姿は単純にカッコよくみえました。その後、大学を卒業し東京で就職。3ヶ月が経ったころ母から「じいちゃんが豆腐作りを辞めることになった」と電話がありました。「もったいないな」と思い、すぐに「僕が継ぐよ」と声に出しました。会社を退職し、家業を継ぐため実家のある新発田市ではなく、新潟市へJターン。まずはじいちゃんの味を再現できるようにごまどうふ作りを学び、4年かけて少しずつ販路も広げていきました。現在は商品の質を高める努力も続けながら、マルシェなどの若い世代も訪れるイベントでじいちゃんの味を引き継いだごまどうふを販売しています。
ごまどうふ作りを継ぐことを意識し始めたのは大学4年生の時にじいちゃんの工場に入ったことがきっかけだったと思います。初めて工場をみせてもらった後、神奈川のバイト先にごまどうふを持って行ったら「こんなに美味しいごまどうふ、初めて食べた!」「おやつみたい!」と口々に褒めてくれたのです。その言葉が単純に嬉しくて、じいちゃんのつくるごまどうふの価値を再認識しました。その後、どんどん興味が湧いていき、休日の度にいろいろなごまどうふを食べてみたのですが、やっぱりじいちゃんのごまどうふが一番美味しい。なので、母からじいちゃんが引退すると電話があったとき、わりとすんなりと結論は出ました。もともと独立して仕事をしたいという意識はあったのですが、それ以上にじいちゃんの工場に初めて足を踏み入れてから「いつかは僕が後を継ぐ」という気持ちが頭の中にあったのでしょうね。今それをやらないと味を教えてもらえなくなってしまう。継ぐことに迷いはなかったです。
事業継承の形でしたが、販売先は工場の隣にある小さなお店だけ。新たな販路を確保するのには苦労しました。でもその前に、まずじいちゃんの味を受け継がなければいけません。ごまどうふを作るじいちゃんの腕の動きをみながら、ふたりで黙々と作業を続けました。そんな作業を繰り返していたあるとき、突然じいちゃんが工場に来なくなりました。それ以降、何も言いませんが「認めてもらえたのかな」と認識しています。その後はずっとひとりでごまどうふ作り。何とか作れるようにはなりましたが、今度は販路のことを考えなければいけません。1年目は農産物直売所の販売のみで、売り上げは微々たるもの。まずは試食をしてもらうことが必要と2年目にはイベント出店させてもらうようになりました。3年目で若い世代にもアプローチするためかわいらしさとキャッチーさを意識してデザインとパッケージを一新。『ごまうふふ』という商品名にリニューアルし販売を始めました。秋ごろに新聞の取材を受けたことで、イベント時に買ってくれるお客さんが少しずつ増えてきました。もし東京で同じことをやっても気にかけてくれる人は少ないはず。新潟だからこそ、スタイリッシュ過ぎないデザインとイラストで販路が広がっていったのだと思います。
仕事を継ぐ環境があったのは、すごくラッキーだったと思っています。自分が継ぐことでその地域に根ざして続いてきた商売を残していけることはすごく素敵なことです。もちろん、一筋縄ではいかないことが多いことも事実。実際、私の場合も商品はありましたが、販路は自分で開拓しなければいけませんでした。事業継承ですが、商品ありきのベンチャーみたいなもの。それでも「二度目の人生でもごまどうふ屋をやりたい」と思うくらい継いで良かったと思っています。
東京での生活は“消費”ばかりで何も生み出せていませんでした。でも新潟では飲みに行くのも、気になるお店に行くのもすべて仕事に繋がる可能性がある“生産”の生活。仕事に関する意識はガラッと変わりました。不安があるようであれば、まずは情報収集から始めてみるのはどうでしょうか。僕も2018年にお笑い芸人の西野さんが運営するAmebaTV番組「ニシノコンサル」に応募して取り上げてもらってから、ウェブで情報や仲間を見つけられるようになりました。他の地域の若い経営者や活動を追うことで自分のヒントになる情報を見つけられるかも知れません。新潟という環境を生かしながら継業したり起業したりすることをぜひ考えてみてください。